逃げの戦略 その2

前回のブログで、逃げについての基本的な流れを書きました。

ここから実際に今回の群馬のレースの展開を参考に、どういうことを考えながら走っていたのかを書きたいと思います

  • コース分析とスタート前の準備

まずスタート前の情報として、今回走った群馬CSCのコースは1周6km程の短い周回コース。


↑群馬CSCウェブサイトより。写真上の矢印は正周りなので今回はこの逆になります。


周回コースはコーナーが多くスピードの変化が大きいので、直線の一定ペースで走れるコースに比べて、常に加速と減速を繰り返すので集団の前にいても後ろにいても負荷の差が小さくなります。ということは逃げていてもチャンスはあるということです。

とはいえ、ここ群馬の場合は逃げが絶対的に有利と言えるほどのアップダウンとコーナー数でもないので、独走パターンもあり得るし最後は20名程度の小集団での勝負になるパターンも五分五分でした。

群馬逆回りでは、上りの斜度が緩くなってスピードが上がります。速度が上がると空気抵抗が増え、横に出るより後ろにつく方が圧倒的に楽なので、必然的に弱い選手は後方で空気抵抗を減らす走りをして、力のある選手だけが風を受けながら前で走ることができるようになります。


  • スタートからのアタック合戦

スタートから色々な選手が入れ替わり立ち替わり加速して(アタックして)抜け出そうとします。

↑伸びた集団からさらにアタックするアイラン。この写真の後方に写っている選手はこのアタックに反応することは不可能です。選手たちもそれはわかっていて強い選手ほど前にいるので必然的に動くのは強い選手だけになります。実力的に前に上がってこれない選手が上がってくる場面は集団のペースが緩んだ時で、そういう時は集団密度も高かったりします。そこで空気を読まず無理やりあがってこようとすると危ない割り込みなどになり、落車の原因になったりします。コースによってはペースが上がりにくくそういう訳のわからない落車が起きてしまう時もありますが、今回はそいうことも少なかったです。

位置取り争いも、ただ単に狭いところに突っ込んでいくのではなく、コースの先を予測したり周りの選手が何を思って何を見ながら走っているか考えながら自分の位置を確保するものですが、時々「嘘だろ?そこ割り込んだら絶対危ない」という動きをする選手がいます。その場合も自分でできる範囲で落車が起きないように対処しますが、危険ですしそういう信頼関係を損なう動きをする選手やチームの情報はチーム内で共有されたりしていて、危険回避のためにも割り込ませないようにしたりします。どんなに有名なジャージでも危ないとわかったらそれなりの対応をします。逆にどんな知らない選手でもちゃんと走っているのがわかれば(選手同士なら数秒動きを見ればマトモかどうかある程度判断できるので)特に理由もなく除け者にしたりはしません。


話が少し外れました。

さて今回は距離も日本のレースにしては長めの150kmオーバーだったので、ある程度のサバイバルレースになると予想していました。

スタートしてすぐにアタック合戦になりましたが、僕やダイキが主に反応します。その穴を埋めるようにホセやマリノも反応します。

年間総合リーダージャージを着ているホセは目立つのでなかなか逃してはもらえませんが、それでも大きな動きには反応します。もしホセが逃げることができれば他チームにとっては大ダメージになります。


  • いつどのように動くのか

アタックする時も、やたらめったら抜け出そうとするのではなく、自分たちのチームに有利になるように動きます。自分やチームメイトが抜け出す、もしくは意図的に他チームの選手を抜け出させる動きをするようにします。そのために常に他のチームの選手の動きを見ながら走ります。

3チームくらいは常にマークしつつ、ゴールまで絶対に逃げきれなさそうな明らかに力の劣る選手や少人数のグループが抜け出しを図ろうとしている場合には、「どうぞ行ってらっしゃい」と放っておいたり、僕が自らアタックして抜け出そうとしたにもかかわらず、自チームにとって今後の展開に不利になりそうな選手が付いてきたら、いったん踏むのをやめてペースを落としたりします。

これを各チームがそれぞれやっているので、集団はかなり複雑な動きです。

明らかに自分が動いたら損する場面でも、マトリックスの誰かが動かなければレース後半に不利になりそうだと判断した場合には積極的に動いたりもします。


100名以上が出走しているレースですが、実際のところ動ける選手は限られていて大体いつも同じような顔ぶれです。

僕はレースによっては苦しくて前に上がれず全然走れないこともあるのですが、今回は割と楽に走れたので集団前方で展開に対応していきます。


  • 逃げが決まる

レースが進むにつれ何度か同じようなメンバーで抜け出す場面が見られました。

特に愛三の岡本/住吉/ワタナベ、シエルブルー鹿屋の石橋選手、セレクションチームの幸平さん、他にも数名が積極的に動いていたので彼らの動きに同調して動きます。

思惑の一致している他チームの選手と一緒に5人くらいで飛び出すことに成功し、その後すぐにホセとマリノも合流しました。みるみるうちに、15名程度の逃げ集団が完成します。実は、この直前にもホセとマリノを含む同じようなメンバーで一度抜け出しかけていて、マリノに「また俺ら3人かい笑」と話しかけていました。明らかに実力者揃いのメンバーだったので、後ろで取り残された選手たちは不意を突かれたか、もしくは反応できないかですね。。。

1チーム8人のレースにおいて、このメンバーでこの人数の逃げというのは、追走するチームにとっては明らかに多すぎです。ノーマークの選手ならまだしも、ホセやマリノを含む強い選手が揃っていたので、これは「逃げ切れるかわからないけどとりあえず頑張る人たち」ではなく、「勝負をかけた人たち」による先頭集団という意味あいが強くなりました。こんな大きくて強力な逃げができそうになった場合、逃げに選手を送り込んでいるチームの中でも有利不利ができますので、例え先頭集団にチームメイトを送り込んでいたとしても、勝つことが難しいチームは普通はすぐに捕まえて振り出しに戻そうとします。

しかし、今回に限っては、すぐに振り出しに戻されるような動きはなかったようです。

僕としては、「え?このまま行かせてもらっていいの?」という感じです。

とりあえずペースが落ちないように先頭を引きます。

ここまで逃げができる瞬間までのお話。

予想以上に長くなったので、続きは次回!

写真 :Satoru Kato

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自転車選手小森亮平のブログです