さて、今回の群馬のレースでマトリックスはマリノの独走逃げ切りという形で勝利を挙げたわけですが、ちょうどレースのときにどんなことを考えながら走っているのか書こうと思っていたところだったので、逃げていたとき、どういうことを考えながら走っているのか書きたいと思います。マトリックスの戦略的には独走もしくは少人数の逃げ切りが多いですが、どう考えながら動いているのか、少しでもお伝えできれば嬉しいです。
そこで今回の群馬の話をする前に、そもそもロードレースにおける「逃げ」という戦い方について少しだけ書こうかと思います。
逃げとかアタックとか知ってますという人は飛ばしてください。
まず前提として、自転車レースは空気抵抗との戦いです。速く走ろうと思ったら風の抵抗を受けることになり、それが走っている本人にかかる抵抗のほとんどを占めます。自転車よりも速度の遅い陸上競技でも、人の後ろに付くと楽なので、レース中の平均速度が40km/h以上になる事も多い自転車では空気抵抗を減らすことは成績の向上には欠かせません。
そして自転車ロードレースはマラソンと同じように全員が一斉にスタートするマスドスタートです。同じように走っている他の選手の後ろにピッタリ付くと空気抵抗が約2/3になると言われていますので、最もお手軽に空気抵抗を減らす手段は「人の後ろについて走る」となります。
で、最後だけ頑張って1番でゴールすれば良いわけです。最後、前に出るために全力でスパートする、これがゴールスプリントですね。
- 「逃げ」という選択
ここで問題が生まれます。
最後のスパートが遅い選手はいつまでも負けてしまうことと、みんながみんな人の後ろにつこうとすると「どうぞ、どうぞ」状態で、どんどんペースが遅くなってしまいます。
そこでこんな人が現れます。「じゃぁ俺、最後のスパートでは弱いから勝ち目ないし、風を受けても良いから先行して最後のスパートでも追いつかれないように最初から頑張る」という調子で、ヨーイドンから平均スピードをあげる作戦に出る選手がいます。
後半のスパートに備えてゆっくり走りたい選手と先行したい選手の差、ここに「逃げ」が生まれます。
ただし先行したい選手も徐々に加速したのでは、「後ろについていったらラクだし俺も連れて行ってくれよ」と他の選手がついてきてしまいますので、勢いよく加速して後ろに他の選手がついてこないようにしながら抜け出そうとします。これが「アタック」です。
↑レース序盤、後ろの選手たちを振り切って先行しようとします。
みんながみんな先行しようとして、誰もうまく抜け出せないと、たくさんの選手が加速を繰り返す「アタック合戦」になります。
これをその時々のレースの状況から、残り100kmからやったり場合によっては50kmとかラスト5kmでやったりするわけです。
↑レース中盤での、小集団からのアタック
ちなみにずっと全力で加速しながら走ることは不可能なので、アタック→一休み→アタックを繰り返しながら走ります。
先頭で走る選手(場合によっては複数)は、風を受けながらも先行して他の選手にタイム差をつけながら走ることで、勝機を見出そうとする。
逆に先頭で逃げている選手以外の人たちは、後ろで固まってお互いを風除けに使いながら体力を温存しながら後半戦に備える。
ここまでが基本的にな「逃げと集団」の考え方でしょうか。
- 「逃げ」のチームプレイ
そして、ここで一つ条件が加わります。
それはロードレースはチームで参加するということ。JPTの場合は1チーム8人ですが、レースによっては6人だったりします。
チームで参加して、チーム内から誰か1人勝てば良いのです。
ここで「逃げる」ことに価値がもう一つ生まれます。チームメイトの誰かが逃げて先行してくれれば、後ろに残ったチームメイトはそれを見送って彼が勝ってくれれば良いが、他のチームにとっては彼に逃げ切られては困るので追いかけなければならないということです。
ここで逃げていないチームの選手は、後ろに残った集団の先頭に立って風を受けながら逃げの選手たちを追いかけます。大抵の場合、集団の方が人数も多く有利なので逃げは捕まります。しかし、逃げたチームと同じチームの選手は集団の中で待機して体力を温存することができるのでレース後半の勝負で有利になります。(風を受けながら走る選手がアシスト、最後のスパートで実際に1位でゴールしようとする選手がエースという役割分担が生まれます。)
仲間のうちの誰かが逃げることがその後の展開に有利なのは明白なので、スプリントでの勝利が100%約束されてるようなチームでない限りどんなチームでも誰かを逃げに送り込もうとします。
↑去年のレース。スプリント狙いで逃げを先行させてマトリックスは集団先頭で風を受けながらコントロールしています。
逃げようとする選手が多いと必然的にペースが上がりレースそのものが厳しくなるので、弱い選手は篩い落とされてしまいます。なので強い選手(チーム)は、勝率を上げるためにも強い選手だけで勝負をしたいので序盤からペースを上げたりします。
さてここで新たな疑問が生まれます。
「え、じゃぁ後ろで追いかけようとする選手よりも強い選手が逃げたら追いかけるのは難しいのでは」とか、「仮にひとチーム8人の場合、8人以上が逃げて、後ろの集団で追いかけるチームが1チームしかなかったら、追いかける人より前で逃げる人の方が多くなっちゃって、先頭が有利になっちゃう」
そこで、強い選手は他の選手にマークされてなかなか逃げられないとか、逃げる選手が多くなってしまった場合は追走するチームが1つだけではなくて何チームも協力することで風を受けて走る人の数を増やすという戦略が生まれます。
- 「逃げ」る選手は強いのか
マンセボやホセは強いので、一度逃げられると追いかけるのは大変です。なので他のチームの選手は彼らをマークして走ります。ですが、何度も何度も他のチームの選手がついていけなくなるまで加速(アタック)を繰り返して逃げることが多々あります。力技ですね。
選手同士が少し離れると(10mとか)後ろにいても前にいても空気抵抗は変わらないので、追いかけっこをしたときにゴールまでに追いつけないような選手を逃してはいけません。
なので、各チームが他のチームの選手をマークしながら逃げたりアタックしたりします。
だから、逆に「この選手はそんなに強くないし、レース後半に簡単に捉えられるだろう」と思えば、あえて「逃がす(泳がせる)」こともあります。
多くの場合、逃げるためにはかなりの力を必要としますが、時と場合によってはそうとも限らないという感じです。
さてここまでが、「逃げ」のの基本的な流れです。
ここからやっと本題、実際に今回の群馬のレースの展開を参考に、どういうことを考えながら走っていたのかを書こうかな、、、と思いましたが、ここまでで思いのほか長くなってしまったので、分けて書こうと思います。
続く・・・
写真:Itaru Mitsui, Shizu Furusaka
0コメント