なぜ「オフ」をとるのか

みなさん、オフシーズンにはどれくらい休んでますか?それとも休みませんか?

長々と書いていますが読むのが面倒な方はすっ飛ばして最後だけ読んでください笑


秋に重要な大会が全て終わり、多くの選手が「オフだ」「オフだ」と言い出して、休息期間に入っているのを見たり聞いたりすると思います。さてその「オフ」とはなんなのか、どうやって過ごすのか、シーズン中の休息日とは何が違うのかについて今日は書きたいと思います。

自転車競技に限らず、多くのプロアスリートは「オフ」をとっていますね。多くの場合、「オフ」は1年で最も重要なレースがある時期とは逆の時期、夏に大事な大会があるなら冬にオフをとっていますね。多くのエンデュランス系の週に20時間以上トレーニングをするようなトップアスリートは年に1度は4週間程度は「オフ」を取っていることが多いようです。

では具体的にそのオフは、いつどうやって過ごしているのでしょうか?

2022年の僕の場合を例にすると、シーズンインは3月のJBCFのレースで、シーズン最後のレースは11月中旬の全日本MTB/XCOでした。そして、それを終えると「オフ」に入りました。シーズン後半に大事なレースがありそれなりに集中していたので少し疲れが溜まっていて、いつもならすぐにシクロクロスのシーズンが始まりますが、年内はレースに出るのはやめました。

オフに入ってからは2週間ほどは自転車には乗らず、レースやトレーニングのことは忘れリラックスした時間を過ごします。僕は自転車選手が職業ですから、レースやトレーニングがなければ、他に「仕事」はありません。フラッと旅行に行ったり、趣味の釣り、シーズン中おろそかにしがちな家の片付けや来期に向けた準備等をしながら、少しの期間心身を痛めつけるトレーニングからは離れます。わざわざ暴飲暴食をしたりするのは好きじゃないのでしないですが笑
そして、ある程度休んだのちに徐々に運動を始め、12月に入れば自転車にもまた乗り始めています。


とまぁこんな感じで、今年はオフを取った時期は少し遅いものの、割と典型的な自転車選手のオフシーズンを過ごしたと思います。さてではその「オフシーズン」はなぜ必要なのか、休んでいるあいだ身体に何が起きているのか、適切なオフの取り方とはなんなのかについて少しお話ししようと思います。

「なぜオフが必要なのか」

これは何よりも、蓄積したダメージからの解放と心身のリラックスだと思います。

人間365日ずっと集中を保って何年も何年も戦い続けることはできません。燃え尽きを防ぐためにも、次のシーズンに向けて一旦休息をとることが必要です。

シーズン中も短い休息日を取ったりはしていますが、疲労や体のダメージから完全に回復するのには時間がかかるのでなかなか完全回復とはいきません。レースのない時期にしっかり休むことで体を回復させます。

特にメンタル面の回復は非常に重要で、頭が疲れていたらパフォーマンスを発揮するのは難しいので、オフの間にメインにしている種目から離れてしっかり休むことは重要だと思います。

「オフに何が起きているのか」

ではオフを取ると何が起きるのでしょうか。ここで話しているのはオフ=トレーニングの中断ですが、トレーニングを一定期間やめると身体にさまざまな変化が起き、その中にはすぐに起きはじめる変化となかなか起きない変化があります。

すぐに起きる変化としては、

運動をやめると3日後くらいから血液量が低下していきます。血液量が減っていくのでそれを補うために心臓の脈拍数と1拍あたりの排出量が上昇します。10日後くらいを超えると、今度はVO2maxが下がり始めます。(0.5%/日、最大15%くらいまで)。筋グリコーゲンレベルも運動をやめて5日後から低下し始めて、3週間後にはハイレベルなアスリートも一般人と大差ないレベルまで筋グリコーゲン量が低下してしまい、脂肪をエネルギーに変える能力も低下していきます。(脂肪をエネルギーに変えるためのミトコンドリアの働きが2-3週間の間に落ちるのですが、20-40%落ちる場合も)→乳酸が発生しやすくなったりハンガーノックになりやすくなったりします。

逆になかなか起きない変化としては、

心臓のサイズそのものは、なかなか変化せず、変化が見られるまでは数ヶ月かかるそうです。そして、長い年月を積み重ねて作った強く大きな心臓は運動をやめて数年経っても効果が残っているそうです。毛細血管もなかなかなくなりません。ミトコンドリアの働きは低下しますが、細胞内の濃度自体は変わらなかったハズです。

というわけで、以上のように大きく分けてすぐ起こる変化となかなか起こらない2つの変化がありますが、トレーニングを中断してすぐ起こる変化は、体の構造そのものの変化ではなくホルモンや酵素の働きだったりするので割とすぐ元に戻るそうです。なかなか起こらない変化はその逆ですね。大きな心臓や毛細血管の発達などの構造的は変化はつくるのも大変だけど、それはちょっとトレーニングをストップしたところでなかなか無くなりはしないということです。

オフの取り方」

「オフ」=トレーニングの中断をすると、休む前のパフォーマンスを発揮できる状態に戻るまでに、その中断した期間の2倍は必要だそうです。。2週間休んだらそこから4週間、4週間休んだら8週間ということですね。。。休むのは簡単だが、それを取り戻すのは大変ということです。。。

そしてさらに悲しいお知らせですが、一定期間休んだときのパフォーマンスの落ち方にはかなり個人差があり、落ち込みが激しい選手はあまり落ちない選手と同じように休んでしまってはそれを取り戻すのにかなりの時間がかかってしまうということです。なので、前者は「オフ」の取り方を工夫しないと次のシーズン開幕に間に合わせるのに必死で、パフォーマンスを向上させるどころでは無くなります。

なので、少し休んだだけで大きくパフォーマンスが落ちてしまう選手はメインの種目は休んでも良いが、ある程度完全休養期間を取った後は、他の種目(自転車選手なら水泳とかランニングとかの多種目)を楽しむレベルで良いので行って、フィジカルレベルの落ち込みを最小限にとどめる必要があります。そして、これは同時にクロストレーニングの効果も生み出しますが、この辺りはまた別の機会に。

「オフを取ることへの反対意見」

コーチの中には、意図的に「オフ」=トレーニングの中断をすることに反対の意見を持っている人もいます。わざわざトレーニングの中断=パフォーマンスの低下をする必要はないと。ただその中の1人の話では、わざわざトレーニング中断期間は作らないものの、クロストレーニングを重点的に行う期間は設けるそうです。

「まとめ」

  • 「オフ」=トレーニングの中断は、体を回復させ次のシーズンに備えるために重要な役割を持っている。
  • ただし、一定期間トレーニング中断をするとパフォーマンスが下がるので、次のレースを走れるようになるまでに休んだ時間以上に長い準備期間が必要。
  • 「オフ」期間中の時間があるうちに、他の種目にも触れることで楽しみながら次のシーズンに向けて準備ができる。
  • 「オフ」を取らない選択をするコーチや選手もいる。けど、個人的にはオフは非常に楽しみな時間の一つなので、長く選手を続ける上ではとても大事だと思います。


参照

https://podcasts.apple.com/jp/podcast/fast-talk/id1490521721?i=1000587257188

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